その1 「釜山かいわい:韓国釣り事情」

2005年1月22日付朝日新聞西部本社版掲載
 
 
 
釜山のアジョッシ(おじさん)たちのレジャーといえば釣り。日曜ともなれば釣りのポイントにはいつもm竿(さお)が並んでいる。特に釜山港の出口にある防波堤は人気があり、自分もよく通っているお気に入りの場所だ。天気が良ければ対馬も見えるし、何より日韓の間を行き来する船を眺めながらの釣りは格別だ。
韓国の釣りで一番人気の魚はチヌ(クロダイ)。最近では良型のチヌを求めて対馬まで遠征する人が年に2000人以上という人気ぶりで、日帰りの対馬釣りツアーまで登場している。
食べておいしい魚も当然人気で、最近の調査によれば、食べる方の人気はサバ、タチウオ、イシモチの順だそうだ。だからサバの回遊シーズンには、びっしりとすき間なく竿が並んでいる。
逆に不思議と人気がないのがアジだ。シーズンを問わずよく釣れるが、釣れても余り喜ばれず、放り捨てる人も多い。スーパーでもあまりアジは見かけないし、たまに売っていても韓国名の「チョンゲンイ」ではなく、なぜか日本語そのままで「アジ」と呼ばれている。
そして、何よりも日本と違うのは、釣りをしているアジョッシたちだ。実に無邪気かつ好奇心旺盛で、サバの群れが来れば「コドゥンオ ワッタ!(サバが来た!)」と大はしゃぎし、誰かが大物を揚げれば、すぐに群がって大騒ぎが始まる。
自分もタチウオの良型を釣り上げたら、たちまち周囲のアジョッシが集まって、「どうやって釣った?仕掛けは?」「塩焼きにしたら最高だ!」「いよっ、名人!」と一緒になって喜んでくれる。ちょっといい気分だが、釣り上げたポイントにどんどん竿を突っ込んでくるのには驚いた。
日本ならマナー違反だが、なにぶんアジョッシたちが無邪気なので、どこか憎めず、腹も立たなかった。
釣った魚は持ち帰る人がほとんどだが、その場でさばいてソジュ(焼酎)で一杯やる人もいる。「おまえも一杯やれよ」と誘われてご相伴に預かると、少々血生臭いがコチュジャンとソジュで打ち消せば気にならない。
野趣あふれるm肴(さかな)と日韓を交差する景色、釣り談議で盛り上がれば気分は上々。釜山ならではの楽しい一時(ひととき)である。
 
 

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