その3 「釜山かいわい:倭城の桜〜日韓友好の祈り」

2005年4月9日付朝日新聞西部本社版掲載
 
 
 
大雪に地震と、天変地異で騒がしかった3月も過ぎ、いよいよ本格的な春を迎えた。
釜山の春といえば、やはり桜。韓国人も花見は大好きで、春の花はレンギョウ、菜の花、ツツジも人気だが、断然桜が一番人気である。
特に釜山の近郊には鎮海・慶州・河東など、全国的に有名な桜の名所が名を連ねており、どこへ行くにも大渋滞を覚悟しなければならない程の人気ぶりだ。
花見のスタイルは、ゴザを敷いて海苔巻きを食べるところまでは日本とそっくりだが、日本のように桜の下でドンチャン騒ぎはしない。普段は歌に踊りに賑やかな人たちが、なぜか桜は静かに眺めている。自然を愛でるのと、賑やかに遊ぶのは別ということだろうか。
そして、桜の名所は数あれど、自分が毎年通っている隠れた名所がある。それは西生浦倭城(ソセンポウェソン:蔚山市蔚州郡)だ。
 西生浦倭城とは、文禄・慶長の役(豊臣秀吉による朝鮮出兵:1592〜98)の際に加藤清正が築いた城で、30余りにのぼる倭城(日本軍が築いた城)の中で、最も保存状態が良いことで知られている。
 戦役当時の石垣がほぼそのまま残っている本丸に上がれば、そこは一面の桜で覆われている。日本の城郭に、一面の桜、眼下には青い海。思わず韓国にいることを忘れてしまう景色が広がっている。
 同行した韓国人の友人も、「まるで日本に来たみたいだ」と喜び、周囲の花見に訪れた韓国人も皆、桜と城郭と海が織りなす絶妙のコントラストを楽しんでいる。
 だが、韓国人から見れば「侵略の遺構」である倭城に、誰が桜を植えたのだろうか?
西生浦倭城で文化遺産解説士を務める金青子(キムチョンジャ)さん(51)によれば、「確かな記録は残っていないが、近所に住む人たちの話では、植民地時代に植えられたものもあれば、1960年代に日韓国交正常化を記念して植えたものもある」のだという。
続けて金さんは流暢な日本語で、「だから、日本の方にも気軽に訪れてほしいし、西生浦倭城が日韓の歴史について、互いに理解し合える場所になればいいと思う」と語った。
日韓友好の祈りを込めて植えられた桜の下で、「いいものはいい」と倭城の桜を愛でる韓国人。複雑な歴史を秘めた場所ではあるが、日韓の春を考えるのに相応しい場所なのかも知れない。
 
 

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